落語に出てくる悪いヤツ(長いです。)
ちょっと前の記事で
「古典落語はノホホンとした登場人物に魅力がある。」
ってな事を書きましたけど、実は必ずしもそうではありません。
時々、悪い奴も出てきます。
例えば「牛の丸薬」の主人公なんかは
ただの土の団子を牛の病気の万能薬と称して
善良な村人に高値で売り付けますし、
「壺算」に出てくる徳さんは
番頭を騙して水壺を半値以下でせしめます。
でも、まだこの程度なら、笑ってすまされるレベル。
私が一番嫌いなのは「菊江仏壇」に出てくる若旦那。
上方落語史上最悪の道楽息子です。
親の脛をかじって身代をつぶしかねない勢いです。
大旦那はこの馬鹿息子の目を覚まさせようとして、
器量良しで貞女のお花と結婚させるのですが、全く効果なし。
若旦那は手掛けの菊江のところに入り浸って、家に寄りつかない。
嫁さんは心労から重い病気になって実家に戻ってしまう。
ところがこの若旦那は見舞いにすら行こうとせず、
大旦那が代わりにお見舞いにいっていると云う有様です。
いよいよお花が危篤との知らせが入り大旦那が駆けつけてる間に
事もあろうに菊江を家に呼んでどんちゃん騒ぎ。
とうとうお花は死んでしまうと云う救いのない噺です。
勧善懲悪の欠片もないヒドい展開。
大嫌いなので、聴きたくありません。
同じように人を一人殺しているのに憎めない噺が「算段の平兵衛」。
ここからはストーリーを全部書いてしまいますので、
読みたくない方は飛ばして下さい。
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平兵衛はずるがしこく世渡りのウマいヤツ。
特に何の仕事をしてる訳でもないのに
真面目に働いている人よりもいい生活をしてたりします。
村の人々もあまり好意は持っていないが、頭がいいので一目置いてる。
そして、ついたあだ名が算段の平兵衛。
そんな平兵衛のところに嫁さんがやってきます。
とは云っても訳ありの女房。
なぜかこの女性の名前もお花です。
その村の庄屋は手掛けをかこっていましたが、
奥さんの悋気から手放さなければならなくなります。
それで仕方なくやもめの平兵衛に押し付けたってわけ。
そりゃ村の権力者の妾にもなろうかと云う女性ですから
器量は抜群です。
しかし、平兵衛の目当てはお花の持参品。
それらを片っ端から売り払って博打に興じます。
もー、最低の男です。
いよいよ金も家財も底をつき、どうしようもなくなったところで、
嫁さんに美人局をさせようとします。
まだお花に未練の残っている庄屋を家に引き込んで、
いちゃついてる現場を押さえ、金を脅し取ろうと云う算段です。
まんまと庄屋は計略にかかり、ここぞと云うところで平兵衛が乱入。
「人の嫁さんに何をしさらすんじゃー。」
と庄屋をバコーンと殴ったところ、当たり所が悪く即死。
慌てふためくお花をよそに、平兵衛は冷静に対処します。
死体を背負って庄屋の家に行って、
戸の外から声色を似せて話し掛ける。
「今戻った。開けてくれ。」
「こんな遅うまでどこに行ってはったんです?」
「平兵衛のトコに行ってたんや。」
「平兵衛?そんな事云うてお花に会いに行ってはったんでっしゃろ。」
庄屋の女房の嫉妬心を煽り、カッとさせるあたりがウマい。
「頼むから開けてくれ。庄屋が閉め出されてるなんて、
人に見られたらカッコ悪うて、死にとうなるがな。」
「安い命やこと。死ねるもんなら死になはれ。」
平兵衛は思惑通りこの一言を云わせると、
「はあ、そうするわ。」
ってな訳で、木の枝に庄屋の遺体をぶら下げて、
自分はさっさと帰ってしまいます。
戸の外が静かになったのを不審に思った庄屋の女房が
様子を見に外に出てみると、死体がぶら~ん。
「あわわわわ。」
当時、変死についてはお上に報告せねばならず、
庄屋が自殺したなんて事は家の恥、村の恥。
女房は慌てふためきながらも、何とか隠蔽してしまおうと考えます。
しかし、テンパった頭で良い考えが浮かぶ訳もなく、
結局、平兵衛のところに相談に行くんですね。
平兵衛はそんな厄介な話に関わりたくないと断りますが、
二十五両用意すると云われ、目の色を変える。
「確かにこの事が明るみに出たら村の恥ですな…。
よっしゃ、一世一代の算段をして見せましょ。」
って、お前が殺したんやがな。ったく。
平兵衛は庄屋の遺体を担いで隣村へ。
隣村ではちょうど盆踊りの練習の真っ最中。
薄暗い篝火の中で踊ってる連中の輪にそお~っと忍び込み、
庄屋の冷たい手で、ぴた~ん、ぴた~んと顔を撫でて回る。
「さては近所の村の奴らが練習の邪魔をしにきたんやな。」
血の気の多い若者達が興奮してきたところで、再び、ぴた~ん。
「こいつや!いてまえ~~~!!」
よってたかってフルボッコにされる庄屋の遺体。
平兵衛はさっさと逃げてしまう。
若者連中はあまりに手応えがないのを不思議に思って、
力なく横たわる闖入者の顔を覗き込むと、
何と隣村の庄屋じゃないですか。しかも死んでる。
若者達は慌てふためきます。
困り果てた連中はまたまた平兵衛に相談に行きます。
彼はそんな厄介な話に関わりたくないと断りますが、
二十五両用意すると云われ、目の色を変える。
「確かにこの事が知れたら村同士がいがみ合う事になりますな…。
よっしゃ、一世一代の算段をして見せましょ。」
こらこら、一つの死体で何回儲けたら気がすむねん。
平兵衛は連中に庄屋の遺体を崖の上の一本松まで運ばせると、
そこからどーん突き落としてさせます。
そして、庄屋の女房に遺体を確認させるふりをさせて事故死完了。
全員が共犯者ですから口を割るモノがいる筈がない。
考えてみたら、これ程可哀想な死に方はありません。
殴り殺された後、首を吊らされ、フルボッコされ、
挙句の果ては崖の上から突き落とされたんですからねぇ。
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とまあ、こんな噺なんですけど、この後、サゲがあります。
ただ、それが今の時代に合わないんですよね。
そもそも誰も演じなくなったネタを米朝が復活させたらしいんですが、
米朝自身もサゲまで演ったモノと途中で止めたモノが音源に残ってます。
本来のサゲはコチラ。
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この出来事の後、平兵衛の金回りが良くなったのを嗅ぎつけて
目の見えない按摩の徳さんが小遣い銭をたかりにやってくる。
この男が意味深な奥歯にモノが挟まった様な云い方をするもので、
平兵衛もコイツがどこまで知ってるのかわからず、
云われるままに金を遣り続ける事に…。
平兵衛ともあろう男が強請られるまま小遣いを渡してる事を
村人たちが不思議がります。
「按摩の徳さんは何か平兵衛の弱みを握ってるんと違うか?」
「そうかもしれんが、あの平兵衛相手にこんな事続けてたら
いつか痛い目に合いよるで。」
「そこが"めくら平兵衛に怖じず"や。」
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最後は"めくら蛇に怖じず"と云う諺のダジャレで終わるのですが、
この諺自体が差別的なので今は使われなくなっており、
非常に分かりにくいサゲになっております。
他に文珍や南光のヴァージョンをCDで聞きましたが、
各々サゲを変更してます。
文珍のサゲは儲けた五十両を持ってお花が夜逃げしてしまうパターン。
最後は「誰か算段してくれ~。」と、平兵衛の泣言で終わります。
ちょっと強引な感じがしないでもないですか…。
南光のサゲはなかなか秀逸で、個人的にはコレが一番好きです。
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このまま事故死で片付くと思いきや、
不審に思った役人が調べてみると、不可解な点が次々出てくる。
ところが、関係者にキキコミしても、全く有益な情報が得られない。
ま、関係者=共犯者ですから、当然ですね。
しかし、役人は平兵衛を嗅ぎつけます。
ついに年貢の納め時が来たか、と、平兵衛が
「観念いたします。」と諦め顔で云うと、役人は慌てた。
「いやいや、観念してもらっては困る。
そなたにこの難事件を算段してもらいたいのじゃ。」
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長々失礼致しました。
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